2017年3月16日木曜日

検証部 その3 stand alone complex / 動機ある他者

※ネタバレあり注意 

攻殻機動隊SACのネタバレしていきます。





検証部騒動自体については、もう特に言いたいこと無いので書くつもりありませんでしたが、明らかに僕の書いた関係図を下敷きにし、恣意的に一部を切り出して、いわゆる "追求勢" を批判する文脈の記事を見つけてしまいました。そういう人に同一視されると気持ち悪くてしょうがないですし、「大衆人」の批判ばかりしてきたので、そのバランスを取るためと、自己弁護のために、もう少し書いていきたいと思います。

本当は、この記事の続きとして、言及していた「動機ある他者の意思」という事について書きたかった事なのですが……。






炎上のモチベーション


ここのところずっと、いわゆる「炎上」事案で好きなだけターゲットに石を投げつける「大衆性」の悍ましさを批判する記事を書いてきました。それは事実であると確信しています。

では、その際に最初にその批判の声を上げた人が大衆人なのか否か。つまり誰も批判することの無かった、もしくは出来なかった傍若無人で邪智暴虐な存在に対して最初に声を上げた人が大衆人なのか否か。そして「炎上」する大衆の動機自体が邪悪なものであるのか否か。

僕はどちらも、否定します。







動機なき他者の無意識、或いは動機ある他者の意思


"動機には正当性が有るが、手段がおかしい" と何度も書いた気がします。要はその話になります。例えば近年色々と騒がせているツイッター等での炎上案件があります。一々例示しませんが、その切っ掛けはほぼ炎上した本人に原因がありました。

(※もちろん全くの冤罪炎上事件もありました。それは言うまでもなく、炎上していた本人の罪ではないです。その辺りの正当性を確保できない事が衆愚の衆愚たる所以、大衆性といえるでしょうね。)

食べ物を粗末に扱ったり、食器洗い機に体を突っ込んだりとか………、まぁなんでも良いです。もちろん検証部も。原因は全部やらかした本人が馬鹿だからです。そこに何の疑問の余地もありません。(※除く冤罪炎上)

では、そのやらかした人に寄ってたかって石を投げつける構図の何が悍ましいのか。答えはいみじくも聖書に書かれています。

" イエスは「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」と言った。これを聞いて誰も女に石を投げることができず、引き下がった。また、イエスも女の罪を許した。"





馬鹿は増えたのか?



そういった人が現れる理由は、別に「世間に馬鹿が増えたから」なんて事ではないと思います。ただ単にそれが露呈しやすい媒体とツールが新しく生まれたためでしか無いと思います。例えば、本当に胸に手を当てて考えて頂きたいのですが……、

10代の頃にやらかした誰にも言えない秘密のない人いますか?

今思えば信じられない恥ずかしい事をやってしまった経験のない人いますか?

それが悪いことだと理解しながらも、犯してしまった倫理や罪の過去を持たない人がいますか?

バカッターなんて話題になったのは、今の10代の子達が手にしたスマホというツールに、「メール」「Facebook」「Twitter」「LINE」...etc. これらのアプリが均一にインストールされている事が原因にしかすぎません。僕の世代はネットの発達とともに成長し、それぞれの媒体の「特性」と「対外的オープン度合い」を理解できています。しかし10代の子達にポンとスマホを手渡して、それらがどの程度他者の目にとまるのか、特に何の説明も受けずに理解せぬまま使っていたのでしょう。そして、本来は "身内ネタ" として表沙汰になるものではなかった事柄が、表沙汰になってしまったに過ぎない現象だと思います。

加えて、手軽に動画や写真で記録を取り公開できてしまう、スマホという便利過ぎるツールがあるために、表沙汰になったにすぎません。馬鹿が増えたわけではなく、それが露呈する機会が増えただけです。

ガキがガキである特性を発揮してやらかした恥ずかしい過去の一ページに過ぎない事柄です。こんなもの誰にでもあります。近親者や近しい立場にいる大人が、その子供達をきつく叱って終わりです。彼らの過去に恥ずかしい歴史を刻んで終わりです。それに対して「社会的ヒステリー」と言ってもいいほど、大人たちが大騒ぎしてみんなで寄ってたかって石を投げるというのがどう考えてもおかしい。

それもまた、ネットやスマホというツールに対する社会的な不慣れさから起きたヒステリーだと僕には感じられます。






動機ある他者の意思と動機なき他者の無意識


そして、またしても攻殻機動隊 stand alone complexを引き合いに出してみます。26話で出てくるセリフ。この記事の続きになります。

全ての情報は共有し並列化した時点で、単一性を喪失し、動機なき他者の無意識に、或いは動機ある他者の意思に内包される。


セラノゲノミクス医療用マイクロマシン疑獄事件の真相を知った笑い男は、その不正を暴くため行動し、汚い大人たちへと挑みました。その動機ある意思はとても正しい。しかし、その真相を知るわけでもなく、stand alone complex現象を引き起こし、無為なテロを起こした動機なき他者達は全く愚かな大衆人と言わざるをえない、という動機なき他者達の問題を述べました。


この構図を炎上事案で例示すれば、
疑獄事件容疑者 = 炎上当事者
動機ある他者 = 親、教師等責任ある大人(刑事事件なら司法)
動機なき他者 = 炎上祭り参加者
という事になります。




ではその反対側、動機ある他者の意思とは。stand alone complex 23話では、少佐自身がまさに笑い男の模倣者となりました。また最終話では、トグサもSAC現象を起こしました。


笑い男を演じる草薙素子

公安9課のメンバーは、当初はただ笑い男事件を広域テロ事件のように扱っていました。しかし、捜査が進むにつれ、その裏にはもっと大きな政治的な意図とエネルギーがある事に気づきます。その際に、22話で笑い男が少佐と接触し、「記憶の並列化」が行われます。そして笑い男事件の真相を知った少佐もまた、SAC現象を起こし「動機ある他者」としての意思を持ち笑い男の模倣者となります。それらが伝播し、公安9課メンバーもまた動機ある他者として明確な意思を持ち、その正義を追求しました。その様は決して邪悪なものでも悍ましいものでもなく、熱い人間としての志ある行動です。

そして、動機なき他者が、何らかの不正や社会悪に対して批判する意思を持つこと "自体は" 全く正しいです。こんなもの議論するまでもありません。例えば我が国は民主主義国家です。まっとうな良心を持つ国民がきちんといなければ、まっとうな政治が成り立ちません。選挙する際に、正しくその候補者の人品骨柄を評価してこそ、正しい投票行動が行える事と同じです。あるいは、モラルもつ人々が大多数でなければ治安も維持できません。

そういった良心を持つことは全く正しい。しかし彼らがそれを私刑するような社会は全く悍ましい。

もう何度も書いていますが肝心なのは、「モラルを失わず悪しき物を批判する心を持つこと」と「自分もそれに加担する可能性のある存在であること」の天秤を保ち続ける事です。そういう意味で、僕は検証部騒動のいわゆる "追求勢" が、検証部に対して抱く嫌悪感とそれを批判する心は全く正しいと支持します。心の底から同意します。ただし、同時にそれらを自分には存在しない悪性であると好きなだけ石を投げる行為には、絶対同意しません。彼らの姿を、違う形の自分ではなかったか、と恐怖する事が大事だと思います。

「炎上」のモチベーション自体は邪悪なものではないと思います。そこには人の大衆性という悍ましさの反対側の側面である、人間の良心があります。良心と炎上は表裏一体です。何度も言うように肝心なのは、そこで自らのうちにある天秤のバランスを崩してしまわないように、己のバランスを取り続ける事だと確信しています。





ただし…


1.検証部を批判する事
2.検証部を批判する大勢の人たちのその動機
3.検証部に寄ってたかって石を投げ続ける大衆がいること

「3が異常だから、1と2も異常だ」なんてクソッタレな主張はホントやめてください。「石を投げる大衆が現れるからと、その動機自体を封殺する言動」には全く同意しません。まさに詭弁です。気持ち悪い。

2 件のコメント:

  1. フィクションはあくまでフィクションなので、現実に当て嵌めようとすると歪みが出てくると思いますね…
    攻殻機動隊は知らないので何とも言えませんが、聲の形に関しては(私にとっては致命的とも思える)齟齬がありましたし。

    それはさておき、明言はしていなくとも、暗に追及勢(の一部)を批判しているように見えました。(が、あたまのわるそうなブログ(仮)と距離を置きたい気持ちはまあわかります)
    誰とは言いませんが、実名&顔写真入りのコラを作成したり、鍵垢のログを公開したり、動機と手段の点で正当性が微妙な行為を見る度に残念に思うんですよね。
    もちろんセーフとアウトの線引きは人によって異なります。ただ、匿名で実名の人物を批判するのは少なくともフェアではないと思いますね。
    ま、主目的は批判対象の社会的評価を毀損することなので問題ないと言えば問題ないんでしょうが。
    ここまで書いて、匿名で実名の署名を募ったksの事を思い出して気分が悪くなりましたね…

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  2. >> フィクションはあくまでフィクションなので、現実に当て嵌めようとすると歪みが出てくると思いますね…
    >> 攻殻機動隊は知らないので何とも言えませんが、聲の形に関しては(私にとっては致命的とも思える)齟齬がありましたし。

    もちろん、齟齬はあるとは思いますし、わかりやすさを重視してあえて触れなかった関係だとか、概念の図として便宜的に書いた所もあります。しかし、そこまで致命的な齟齬ありましたでしょうか? 是非教えていただきたいです。聲の形は相当読み込んだと自負するものがありますが、そこで見落としがあるなら反省せねばなりません。

    >> 暗に追及勢(の一部)を批判しているように見えました。(が、あたまのわるそうなブログ(仮)と距離を置きたい気持ちはまあわかります)

    もちろん、そういう批判を書いています。ただ特定の誰かというよりも、もうちょっと抽象的というか、世論の公倍数的な架空人格というか、世情的にみんなが薄く広くぼんやり合意している意見、あるいは合成の誤謬的マクロな集合体、というものに対して批判しているつもりです。

    別に逃げてるのではなく、何度も何度も書いてますが、個々人の事情を斟酌するとそれぞれいろんな解釈が出てくるよね、という意見をあらゆる事象に当てはめながら、あらゆる面で公平に書こうとすると、気が狂いそうになるほど冗長な文章になるし、全知全能でない限り、かならずどこかでこぼれ落ちるものがある為です。

    距離を起きたいのも、特定の誰かというよりも、そういう概念的な合成の誤謬的人格から距離を起きたかった、という感覚ですね。僕自身も大衆人の一人でしかなく、そういった呪縛から逃れられません。こんな場末のブログとは言え色々と発言した時点で自分の中の天秤が傾きます。そんな傾きのバランスを取りたかったという面が強いです。

    >> 誰とは言いませんが、実名&顔写真入りのコラを作成したり、鍵垢のログを公開したり、動機と手段の点で正当性が微妙な行為を見る度に残念に思うんですよね。

    概ね同意です。ただまぁ盗撮画像とかでなく、自分で公開している画像ならある程度は許容される面もあるし、結局そこは程度問題になるのではないでしょうか。DMや私信の公開も、ただのラブレターを公開するのはアウトだけれども公益性の為ならアリだと思います。例えば犯罪の告発だとか。

    そこの線引はそれこそ全て裁判でもしない限り結論は出ません。って感じでホント難しいとは思います。そこでやはり結論は、個々人が自分の天秤のバランスを崩さないようにすること、となると考え、そういう意見として一連の記事を書かせてもらいました。

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