※攻殻機動隊SACシリーズのネタバレ有り注意
ユングという心理学者の提唱した、集合的無意識という言葉はご存知でしょうか。
集合的無意識とは、個々人の意識や無意識よりも更に深いところに、人類が普遍的にアーキタイプ(元型)と呼ばれる概念を共有している、という説です。DNAに刻まれた記憶、とでも言えば分かりやすいかもしれません。
ユングは世界各地に散らばった神話や伝承などが、明らかに共通したストーリーを持っていたり、どの民族どの文化を調べても、何かしら共通性があること等を元に、人類には普遍的に共有されている概念を持っているのではないのか、と考えたそうです。
アニマ、アニムス、老賢者、なんて言葉は聞いたことあると思います。これらがアーキタイプと解釈され名付けられた概念です。「老人が夢に出てきてとあるアドバイスをもらった」という夢を、極単純な夢分析で「無意識が老人の姿を借りて警鐘を鳴らしてるのだ」、みたいな話しを聞いたことあるかもしれません。
その老人が、アーキタイプでいう老賢者であり、人間が誰しも共通して持っている概念の一つである、という感じです。
(しかしそれらは科学的に証明することは不可能で、オカルティックな側面を持ちます。現在では主流の心理学とは離れていると聞いたことがありますが、そのあたり全く詳しくないのでわかりません。とりあえずそういう説があった、ということです。)
では、ネットワークと集合的無意識がどう関係しているのか。攻殻機動隊SACで描かれているstand alone complex現象がそのものなのですが、あるいはもっと具体的な描写は2nd GIGでタチコマたちが明確にセリフとして喋っているシーンがあります。
「人間がその存在を決定付ける以前には存在していなかったネットの在り様が彼等の神経レベルでのネットと、今や地球を覆い尽くさんとしている電子ネットワークの双方によって自身の意志とは乖離した無意識を、全体の総意として緩やかに形成しているって事だよ。」
この頃のタチコマ達は非常に哲学的(あるいは衒学的)になっていて、もってまわった言い方をし、とても可愛いのですが、そのせいで分かりづらい表現かもしれません。
つまり、高度にサイボーグ化と電脳化の技術が普及し、かつネットワークが完全に地球を覆い尽くした世界では、自身が常にネットワーク端末の一つであり、かつその端末(個人)の集合体であるネットが事実上人間の集合的無意識を形成してしまっているのではないか、という事です。
ユングの説にすぎなかった集合的無意識というのが、サイボーグ化した人類とネットワークがボーダーレスに一体化した世界で実現してしまったのではないか、ということです。
具体的には、例えば笑い男がネット上のシンボル(あるいはアーキタイプ)となった事で、その言動が「動機なき他者の無意識」へと内包され、その結果として一部の人々の集団テロを誘発させる……。SACで描かれた現象はそういう事だと思います。
ネット上でシンボライズされた存在の言動や、そのムーブメント、あるいはその世論等へと、本人の自覚のないままそれらの一部へと取り込まれてしまう現象。そうして各端末であるそれぞれの人間の意識や無意識へ影響を及ぼし、stand alone complexを引き起こすのではないのか……。このネット上で形成された集合的無意識がstand alone complexの原因として作中で示されています。
長々と書いてきた攻殻機動隊SACシリーズの解釈ですが、その根底に流れているバックボーンがこれになります。
では、これらのネットワークが集合的無意識と化す可能性は、ただのフィクションであるのかどうか。散々書いてきましたが、stand alone complex現象は現実でも正に起きています。電脳化するまでもなく、携帯やスマホが既に僕らの生活と完全に不可分なものとなり、この端末は明らかに我々の自我の延長線上に存在しています。スマホが自我の延長線上であるなら、その端末の接続先であるネットワークも自我へ接続・内包されており、また逆にネットワークへ自我が取り込まれているという事でもあります。
近頃の細々とした種々の炎上事件から、大きなものならアラブの春まで、ネットツールを媒介とした様々な現象がありました。これらは全てある種のstand alone complex現象です。
この社会は既にそういう時代になっているのだ、と、僕には感じられます。
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